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第90話 あなたが欲しいです

last update Tanggal publikasi: 2026-07-19 19:15:24

「寝室に行く」

 その言葉が耳に落ちた瞬間、体のどこかが跳ねた。

 心臓が大きく鳴る音が、自分でもはっきりとわかった。

 朔弥さんの腕の中で、私は何も言えなくなる。

 彼の広い胸に体が密着し、熱い体温がじんわりと染み込んでくる。

 両足が床から離れていると気づいた途端、余計に恥ずかしくなった。

 腕に包まれた感触が、妙に甘い。

 甘すぎる。

「歩けます」

 とっさに言うと、朔弥さんは私を抱えたまま、ほんの少しだけ目を細めた。

 その目が、熱を帯びている。

「知っている」

「じゃあ、下ろしてください」

「嫌だ」

 あまりに短い返事だった。

 それなのに、胸のあたりをまっすぐ撃ち抜かれたみたいになる。

 今の朔弥さんは、総会の時よりずっと静かだ。

 けれど、引かない。

 私を守るために誰かを潰そうとする強さではなく、ただ、私を離したくない人の強さだった。

「重いです」

「軽い」

「そういう問題じゃありません」

「俺には、そういう問題だ」

 返す言葉が見つからなくなった。

 彼の首に回した腕を、少しだけ強くする。

 それに気づいたのか、朔弥
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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第3話 それ以上、口を開いたら

     昔、午前二時の会議室で、朔弥さんが紙コップのコーヒーを私の手元に置いたことがある。  御門ホールディングスを再建させようと二人で必死だったころ。  私の一番好きなオートミルクラテだった。 「まだやるのか」 「数字が嘘をついているので」  彼は私の肩越しに資料を覗き込み、すぐ近くで小さく息をついた。 「そういうところだ。せめて休むときは休め」  低い声が近すぎて、あのころの私はそれだけで少し浮き足立った。  彼が私を気にかけてくれているのだと、本気で思った。  再建の底で、ああいうくだらないやりとりができる夜だけは、私たちはたぶん同じ側にいた。  なのに今は

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